☆.。.:*・ 銀雲結晶管 .:*・°☆

手紙のスタンプはアッジス、南の島だ。
3ヶ月前にアッジスにいった友達から2週間に一度手紙が来る。
僕はそこに書いてある綺麗な海や、色とりどりの魚や、見た事もない植物に
わくわくして、いつも手紙を楽しみにしていたんだ。
それなのに…

それは嘘だった。
町や、学校や、友達やそこに書いてあったものは
全て友達の作りごとだったんだ。
偶然職員室で見かけたアッジスのパンフレット
アッジスには療養所の建物の他になにもない
小さな島だった。

「芙蓉さん、知ってたの?
アッジスが療養所だって」
僕は新しく届いた手紙を開けられないまま
どうすることもできずに空になったティーカップの横においた。
「知っていましたよ」
店主は優しく微笑む。
「ひどいよ、僕は南の島でクウカは普通に転校したんだと
思ってた。病気なんて知らなかったから
遊びにいきたいとか、酷いことも言っちゃったし…
だって、何もいってくれなかったんだ。
友達だと思ってたのにひどいよ。
嘘の話にいつもビックりしてる
僕をおもしろがってたのかな…」
僕が溜息をつくと
「ココウ君、アッジスはもう今の医療ではどうすることも
できなくなった人達が、残った時間を少しの治療とともに
のんびりと過ごせるように
と建てられた人工の島だという話です。」
「え…」
「そのお友達はココウ君を通して
楽しい南の島にいるのではないでしょうか…?」
僕は楽しそうに過ごしているというクウカの手紙を
思い出した。
「…」
「彼は嘘をついていたのではなく、
希望を見ているのだと思いますよ。
手紙を書いている時だけ現実を忘れて…」
店主は僕の空になったティーカップに
ハイビスカスのお茶を注いでくれた。
僕は南国の優しい花の香りにクウカを想う
「…なんて駄目ですか?」
店主は僕を見て躊躇いがちに微笑む
楽しい毎日、あれはクウカの願い?
…でも実際の彼は苦しんでいるのかも知れないのに…

「…僕は知ってしまった事を話した方がいいのかな、
今までの事を謝ったほうがいいのかな?」
「…現実を知って励ますのは他の方にもできますが、
一緒に夢を見れるのはココウ君だけだと思いますよ。
私はそういう事のできるココウ君はとても素敵だと思います」
僕は店主の優しい瞳に見つめられ、僕は今までの僕のままでいる事にした。
だってそれは僕もそうだと思ったから。
だって僕はクウカの世界が大好きだったから
「…うん」
「さて、じゃあ彼の近状をみてみましょうか?
せっかく書いた手紙を読んでもらえないなんて
手紙が可哀想ですから。」

僕は真っ青な南国の空のような封筒を開ける。
いつもそこにはフワリと海の香りが閉じ込められている
今回はいったいどんな楽しい事がかいてあるのだろう



中には1つの真空管のようなものが入っていた。
そして欲しいと頼んでいた見た事のない海岸の、小さな貝が1つ
手紙も何もはいっていない。
店主はそれを見て「銀雲結晶管」だと言った。
昔銀河雲の電波を使用して、どんな遠い所でも
声が届いたという小さな結晶管ラジオがあったらしい。
今はもうないその結晶管ラジオは、
後にスハイル社の創設者となった人物が少年の頃、
離ればなれになった友達のために作ったという。
「その友達は文字がかけず、そのために
彼は文字の必要のないラジオにしたそうです。
そのラジオはまるでお互いが
そこにいるかのように話をしたと聞いています。

今はそのラジオも、希少品となり、コレクターさえ
探しているそうですよ…。」
いつになく雄弁な店主の説明に
僕は耳を傾ける
唯一残っていたアッジスの結晶管ラジオは
ずいぶん昔に壊れ、療養所の地下に展示してるという
そしてその当時量産された結晶管だけは残り
今は声を届ける事を夢見ながら眠っている。
(その友達が向かったのはアッジスだということが
ラジオの完成度の具合と残っている結晶管の数からも
わかっているらしい。)

「クウカは…もう文字が書けないのかな
そういう事なのかな…」
僕は結晶管ラジオを持っていない、
クウカの声は聞こえないんだ

「アッジスではその結晶管を友達の印として
プレゼントしたりすることが流行っているそうです。」
届かない声とともに…?
店主はそっと僕の髪をなでた。
「文字が書けなくても、僕の手紙は読めるよね
誰かが読んで聞かせてくれるよね?」

それっきりクウカからの手紙は届かなくなった。
僕はクウカは南の国が楽しすぎて、手紙を書く事を
忘れてしまっているんだということにして
相変わらず手紙を書き続けた。
学校のこと、町のこと、想像している南国の事、
クウカのところに遊びにいくということ、
それがとても楽しみだということ…

クウカのお姉さんから
クウカと同じ真っ青な南国の空のような封筒が届くまで
僕らはずっとあの南国で遊んでいたんだ…



Item:11
name:銀雲結晶管
アッジスではその結晶管を
友達の印としあげるのが
流行っているという
結晶管ラジオの銀雲結晶管